おやつく日記(旧:おやつをつくるやつ)

ひまさえあえば、ていねいにくらす

カヌレ日記⑳牛乳は沸騰させなくてもよい

牛乳を先に沸騰させることと、発射を防ぐことは関係ないと思う。ただし、他の理由で温めた方がいい場合もある。

 

 

 

 

 

※今回の内容はまだ検証中で、わたしの今のレベルにおいての判断です(24.1.27追記)

 

 

カヌレ焼成中に発射してしまうのを防ぐ方法の1つとして、「牛乳を沸騰させる」ということが定説になっているが、ずっと疑問だった。

 

 

工場の時点で一度は加熱されているのに、それを加熱して、さらにオーブンで加熱するって、3回はやりすぎじゃないかと(加工段階では高温で超短時間とか低温などさまざまだが、とにかく加熱はされている)。加熱するたびに熱変性は起こっているはず。もはや牛乳らしき何か別の物体なのでは、という感じがして気持ち悪い。もちろん、工場の1回ですでに別ものかもしれないし、2回も3回も一緒かもしれないが、レシピが成立する最低限の工程について検証するのは大事なことだ。

 

 

疑問を持ったきっかけは、カヌレがシンプルな材料の割に工程数が多いこと。「沸騰させて、ボウルに移して、濾して、型に流す」と生地が3回も移動する。「いや、少ないでしょ」という声が聞こえてきそうだが、わたしにとっては多い。カヌレに限らず他にも工程数の多いレシピはあるので、そのたびに不満だったりする。

 

 

工程数が多いとその度にロスが出るのが嫌だ。ケチ臭いと思われるかもしれないが、そうではなく、なんだか美しくないなと思ってしまう。商売としてやっているとか、特別な日ならまだしも、日々のささやかなお菓子づくりで材料をできるだけ無駄にしたくない(やっぱりケチ?)。わたしはカヌレをできるだけ家庭料理に近づけたくて試行錯誤しているので。

 

 

 

いつだかカヌレの歴史について調べたところ、カヌレ誕生後に家庭に浸透した様子がなかった。家で作るにはめんどくさい割に絶品というほどでもないからだろう。カヌレってやつは発祥の時点で存在自体が特別らしい。だから「家庭料理が―」なんてのたまうことは、そもそもがトンチンカンなのかもしれない。それでもわたしはカヌレづくりをできるだけ手軽なものにしたい。

 

 

今日は生クリーム入り、具にラムレーズン&イチジク

 

そこで、前々から疑問だった沸騰の工程について、ひょっとしたら省けるのではないかと考えた。

 

 

カヌレづくりで先に牛乳を沸騰させる理由でわたしが見たことがあるのは、牛乳は沸騰すると吹きこぼれるから、オーブンに入れるより先に沸騰させて組成を壊しておくことで、焼成中に型から飛び出す「発射」を防ぐことができる、というもの(うろ覚え)。「しなくてもよい」という人もたまに見かけるが、断然少数派なので「やった方がいいのだろうな」程度に思っていた。

 

 

でもよく考えてみたら、「ふきこぼれ」と「発射」って関係ある?

 

 

発射というのは、上部の焼成が先に進むことによって、上から逃げられなくなった水蒸気が下に溜まり、生地を押し上げる現象だ。ふきこぼれは牛乳が表面からボコボコあふれ出るような感じだろう。水蒸気が関係する点は同じだが、それ以外はどうだろう?

 

 

牛乳のふきこぼれについて簡単に調べたところ、加熱によって表面にたんぱく質の膜を張り、膜の表面張力より水蒸気の押し上げる力が勝ったときに起きる現象らしい。ということは、牛乳は膜を張るので見た目のインパクトは強いが、それ以外は水の沸騰と同じ。水は膜を張らないから”ふきこぼれ”に見えないだけで、水蒸気を外に追い出す現象が起きているということ。

 

 

沸騰関係なくおいしいけどね

 

先に沸騰させることで牛乳に溶け込んでいる空気を外に追い出し、焼成中に発生する水蒸気量を最初から減らせば発射しない、という理屈だろうか。しかし、はたしてその工程でどれだけの空気を抜けるのだろうか? 実際、わたしのカヌレづくりでは今までずっと沸騰させてきたが、しっかり発射している。生地には卵や粉も入っているので、それらの影響も大きいはず。牛乳だけ先に沸騰させるのは「効果のほどはともかく、ゼロではない」程度にしか思えない。

 

 

ではなぜ発射防止のために沸騰させる、という説が一般的になっているのかというと、

 

カヌレは発射しやすい。そういえば牛乳は沸騰するとふきこぼれる。先に水蒸気を逃がしておくことで少しでも影響を減らせるかもしれない。考え得る原因はすべて排除しておくに越したことはないから、やった方がいいんじゃない?”

 

のようなことを想像した。

 

 

別の要因も絡んでいるだろう。たとえば、香りづけに使うバニラビーンズは加熱した方が風味がつきやすいし、砂糖も溶けやすい、溶かしバターを混ぜるならある程度加熱は必要だ。このように、加熱した方が良い理由が他にもあることだし、どうせなら沸騰(間近)まで温度を上げても一緒だろう、と思われたとか。

 

 

いや、もうちょっと違うかも。かつての時代であれば、今のように工場で殺菌されていない可能性もある。殺菌を一番の目的として、付随する効果が「香りづけ+発射対策+砂糖を溶かす」だったのかもしれない。沸騰させるのが当たり前ならば、それ以外のことを深く考える必要もない。この流れが一番自然かもしれない。

 

 

だとすれば、現代のカヌレでは「事前の牛乳沸騰ナシ」というレシピがあってもよさそうなものだ。

 

 

そこで、冷たいままで作ってみたところ、発射うんぬんとは別に不都合もあった。その結果について軽くご報告。

 

 

今回は冷蔵庫から出したばかりの牛乳を使って生地を作り、冷蔵庫で寝かせた後に湯煎で人肌程度まで温めてから焼いた。カヌレ生地作りはもともと簡単なのだが、沸騰の工程を抜くとさらに楽になった。ロスも少なくなって気分も良好。(バニラビーンズは不使用)

 

 

ただ、溶かしバターを入れるとすぐ固まってしまい、濾したら引っかかってしまった。ヘラでムリヤリこしたけれど、これじゃ先に溶かしバターを入れる意味がない。バターが溶けるくらいの温度まで上げた方がいいのか。

 

 

溶かしバターを先に入れた方が生地と馴染むのではないかと思っていたが、粗熱が取れて冷蔵庫に入れると結局分離しているので、関係ないのかもしれない。だったら翌日、人肌に温めたときにバターを入れて、その後に濾したら、もっとシンプルな工程になりそう。一晩寝かせた後で砂糖を入れるというのもアリかもしれない。それはまた次回に。

 

 

それで焼成してどうなったかというと、ふきこぼれはなかったが、発射はしてしまった。ただやっぱり、沸騰の有無は関係ないと思っている。

 

 

まず上部からのふきこぼれがない。また、沸騰させようがさせまいが、飛び出す量は一緒(毎回違うので断定はできないが、少なくとも沸騰させないからといって、極端に飛び出すこともない)。だからやはり発射の原因は「焼成温度の調整」に違いない、と決めつけた。沸騰させないことで分量の配分が変ったので、そこも多少影響しているだろうか(というほど繊細な作り方はしていないが)。

 

 

沸騰ナシで作ったのは2回目。前回も発射してしまったので、まだ断定はできないのだが、現時点で「沸騰は関係ない」と結論づけたので、ここからさらに厳密な実験をするつもりはない(レベルが上がればまた変わるかもしれないけれど、当面ないはず……)。一番のネックであろう温度調整を主軸に、ほかの要因については思いつきがあればマイナーチェンジする程度でいいだろう。

 

 

牛乳を事前に沸騰させることのメリットデメリットについて整理すると

 

メリット:

・材料の馴染みが良くなる

・バニラビーンズの香りがつきやすい

・発射の要因を減らせる(ただし効果のほどは疑問)

・レシピ通り作ることができる(ほとんどのレシピは沸騰を前提としている)

 

デメリット:

・牛乳の熱変性が起こる

・工程が増える

 

 

といったところだろうか。メリットの方が多くなってしまったが、わたしはここに書かれたメリットよりデメリットの損失が大きいと感じたので非加熱レシピでやっていきたい。ただ、考え方や環境によってどちらがいいかは変わってくるだろう。わたしは「3回の加熱」に抵抗が強いのだが、そんなの気にしない、という人もいるだろうし。ほかにも考えられるメリット・デメリットはあるかもしれない。

 

 

そういえば似た材料のプリンはどうだろう、と思って調べるとプリンもまた沸騰直前まで牛乳を温めるらしい。正確にいうと「沸騰」「沸騰直前」「60度くらい」「あたためる」など、人によって温度は違っていたが、「沸騰直前」が一番多い印象。このばらつきもカヌレに似ている。

 

温める理由について書かれているものの1つに「焼成時間を短くできる」とあったけれど、それがメインではないだろう。こちらも「砂糖を溶かす」とか、「たんぱく質の組成を壊す」「殺菌」などの目的があるのではないだろうか。わたしだったら砂糖が溶ける程度まで湯煎するにとどめるかな。それが一番おいしい気がする。

 

 

「きっとカヌレみたいに沸騰(加熱)させないハズ」と、めったに作らないプリンのレシピを久しぶりに確認したら、こちらも沸騰させていたというオチが待っていた。なんともはや。これを見るに、プリンのレシピありきでカヌレもそれに従っただけじゃないのか? これを知ったら「発射の原因」なんてただの後付けにしか見えないのだが、さて真相やいかに。

 

 

最後にこういう事実を知るとガックリくる。でも考えたことは無駄じゃないだろう。プリンは関係ないかもしれないし。ということでまた次回。

 

 

焼成後の型

 

今回とは関係ない話。焼成後の型にこびりついたキャラメルみたいな焦げ付きを見ていると、焼成中の温度のグラデーションがつかめる気がした。が、その後、思考停止。これが役に立つのか謎だが、心の隅に置いておきましょうか。