出会いは小学1、2年生の頃。
記憶をたどると、お菓子のレシピ本は物心つく前から家にあった。
最初の方が破れた本が、なぜかおもちゃ箱の中に入っていた。一番上のページにはおいしそうなイチゴのショートケーキの大きな写真、下には小さくて難しい文字がびっしり。やや高尚な洋菓子の本だったと思う。子供の自分にはそれが何の本か分からなかったが、魅力的なお菓子がたくさんあったので眺めるのは好きだった。写真集みたいなものだった。
母もたまにお菓子を作ってくれたが、アイスクリームとかかき氷、スイートポテトくらいしか覚えていない。そのレシピ本を参考にしている様子はなかったので、なぜ家にあったのか謎だ。
だから本があっても「レシピ本」なるものは自分の世界に存在していなかった。
そんな時に出会ったのがこちら。母の知り合いにもらった。
まだ売っていたのに驚き。そして来年で発売40年とは!
完成したお菓子が並べられた写真が最初の数ページ、あとは道具も途中の様子も全てイラストで描かれていて、絵本のよう。ほとんどひらがなで子どもも抵抗なく読める。
クッキー、ケーキ、ゼリーなど洋菓子が中心で、みたらし団子といった和菓子、なぜかお好み焼きもあった。ラッシーなんてマニアックな飲み物もあったり。
道具の解説やお菓子作りの基礎の基礎くらいの話も載っていて、成長して他の本を読むようになってからも、たまに見返すことがあった。
初めて作ったのは忘れもしない「アイスボックスクッキー」。
レシピでバターの分量が225㌘というのに時代を感じる。かつてのひと箱分だ。今の200グラムの方がキリはいいが、昔の方がお得感がある。
小さい頃から手伝いで目玉焼き程度は作ることができた。しかしお菓子は分量や手順の正確さが求められる。そういうのが分からなかった。
全ての材料を1つのボールにぶちこんだ光景が鮮明に残っている。粉の上に冷たいままの直方体のバターがドーン、みたいな。混ぜるのに苦労したような気がする。
味はといえば、ベーキングパウダーがうまく混ざっておらず、食べる場所によって苦かった。ご近所さんが作ってくれた、ちょうど同じようなアイスボックスクッキーを食べたことがあったので、全然違うということだけは分った。
母の評価が散々だったことを覚えている。しばらくの間、何か作る度にこのクッキーの話を持ち出された。
初のお菓子作りは大失敗だ。
でもそれがお菓子人生のはじまり。